電子顕微鏡と医工連携の独自技術で全身の健康状態を可視化する―電子顕微鏡の常識を覆す―
2026年2月2日
医学科で電子顕微鏡を用いたイメージングの研究をされている芝田 晋介 先生に、現在の研究内容や創発的研究支援事業*(以下、創発)についてお話をお伺いしました。
*2024年度 鄭パネル 採択

創発ではどのような研究をされますか?
私の専門は電子顕微鏡を用いたイメージングです。研究室では、例えばヒトや動植物の組織から工学系の材料まで多様なサンプルを確実に電子顕微鏡で撮像できる技術を有しており、他の研究室からも解析の依頼が頻繁にあります。透過電子顕微鏡や走査電子顕微鏡などの電子顕微鏡技術は、100年以上も前から使われてきた古典的な技術ですが、近年ではクライオ電子顕微鏡法や超解像度顕微鏡法などの新技術も登場し、過去15年間で関連する2つの分野にノーベル賞が授与されるなど、電子顕微鏡などによるイメージング技術開発は近年ますます注目を集めています。
私どもの教室では医工連携にも注力しており、工学技術を医学研究に応用することで電子顕微鏡イメージングに新しい概念を付与していきたいと考えています。例として、企業との連携によるマイクロ流体デバイスの開発があります。このマイクロ流体デバイスを用いると、例えば細胞体から分離培養した軸索束をチューブ内に封入して、神経の欠損部に新規人工神経として移植することで、神経の再生を促すことができました。この技術を応用し、細胞体から伸びる軸索束の神経活動をマイクロ流体デバイス内の多数の電極で計測することで、神経の活性化状態を経時的かつ定量的に評価することができます。創発では、電子顕微鏡を用いた高度なイメージング技術を基盤として、独自開発のマイクロ流体デバイスを活用して、新たな全身の細胞の健康評価技術を提案しています。
神経活動を評価するための代表的な既存のイメージング技術に、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)があります。fMRIは、血中ヘモグロビンの酸素結合状態による磁化率の違いをもとに、酸素消費量から各脳領域の活性化状態を可視化する技術で、臨床現場でも活用されています。侵襲性が低く経時的な計測が可能な技術ですが、測定対象は脳に限られ、空間解像度も高くありません。
ヘモグロビン分子から遊離した酸素は、細胞内のエネルギー産出器官であるミトコンドリアで消費されます。ミトコンドリアが健康な状態に保たれてエネルギーを適切に供給することは、細胞の健康維持を支える根本的なメカニズムですが、このプロセスを高解像度で可視化する技術はこれまでありませんでした。私たちは、蛍光イメージングや免疫電子顕微鏡法といった、細胞中の分子を高解像度で可視化する技術を有していましたので、この技術を応用して、活性化状態のミトコンドリアを標識し、電子顕微鏡イメージングとマイクロ流体デバイスの技術を活用して、細胞の活動や健康状態を従来手法よりも格段に高解像度で可視化できると考えました。
ミトコンドリアという細胞内小器官は、全身の細胞の中にあります。fMRIが脳神経細胞の活動を対象とするのに対し、活性化ミトコンドリアの標識に着目した手法には、全身の臓器の活動状態や健康状態を可視化できる可能性があります。電子顕微鏡はfMRIと比較すると経時的な観測には不向きですが、全臓器に適用可能で高解像度なイメージングが可能であるという優位性があります。創発では、まずミトコンドリアの標識技術を確立して論文として発表した後で、脳以外の臓器のイメージングへの応用に着手します。その検証過程で新規手法の理解を深める上での有益な知見が得られると考えていますので、将来的には、例えば心筋梗塞モデルやフレイルモデルなど、様々な疾患や老化への応用も可能だと考えています。
創発の構想に至る経緯を詳しく教えてください。
創発で提案した研究構想に至るまでには、約10年前から徐々に蓄積してきた下準備や試行錯誤がありました。活性化ミトコンドリアの染色は、1968年に培養細胞を用いた論文が発表されています。しかしそれ以来、組織や生体を用いて同様の染色に取り組もうとする研究者はおらず、染色によって可視化されているものの正体やその根底にあるプロセスについては推測にとどまり、これらの反応と細胞の健康状態との関連は未解明でした。注目されずに過去に埋もれていった技術の中で、可能性のありそうなものに目星をつけ、現代的な手法を用いて工夫を凝らして糸口を探るなかで実用化への道筋を見いだし、創発の提案に取り入れました。
このような着想を得るためには、基盤となる優れた技術と丹念な文献調査はもちろん、すでにある技術の新たな一面や新しい組み合わせを、試行錯誤を重ねて見つけることが重要だと考えています。現時点では海の物とも山の物ともつかないプロジェクトに、手探りで向き合うのは非常に面白いですし、先の展開が読めないプロジェクトに挑戦することこそ、重要な発見につながることもあると思います。同時に、無理なものに見切りをつけることも重要だと思います。一緒に取り組んでくれた優秀で粘り強い学部学生との様々な予備実験の末に創発の構想が成り立ち、今のスタートラインに立てていると感じます。たくさんの挑戦的な新しい取り組みや偶然の縁を活用した医工連携など、日頃から発見の芽を探索しようとする積み重ねが、現在の研究に生きています。
創発の申請において大事だと思うことを教えてください。
大型の外部資金への申請においては、差別化が必要であると考えています。創発では、電子顕微鏡を用いたイメージング技術に、医工連携による独自開発の技術を組み合わせ、新しい領域を開拓しようとしています。単なる絵空事として申請するのではなく、これまでの1つ1つの優れた技術開発についてインパクトある論文として仕上げられた実績について、評価を受けたうえで新しい提案ができたことも重要だったと考えています。

破壊的イノベーションの捉え方は、人それぞれに大きく異なると思います。私は電子顕微鏡という古典的な技術に、新たな情報やコンセプトを導入することを目指しました。従来の「電子顕微鏡のイメージングは白黒で、構造のみを可視化する」という既存の価値観を覆し、細胞の健康状態や神経の活性化というこれまでにない情報を追加して可視化することを試みています。「最先端の電子顕微鏡イメージングは、構造だけでなく機能も可視化できる」という新たな概念を提唱したいと考えています。これまでの常識を打破したり、新しい情報を可視化するためのまったく新しい切り口を提案したり、クラシカルでシンプルな技術にまったく想定外の提供を追加できるようなものを考え、創発の提案として新たに組み立てました。
URAには、パネル選択などについて的確なアドバイスをいただきました。模擬面接で受けた質問と類似した質問を本番の面接選考でも受け、着眼点は共通している部分もあると思いました。何より、先輩採択者の先生方のお言葉は重いと感じました。選考過程で重視されるのは、科研費やAMEDなど助成事業ごとに大きく異なることを改めて感じましたので、創発に関する情報を採択された先輩やURAからいただける機会は有意義でした。
創発は長期間の支援が受けられる点が魅力であり、破壊的イノベーションや基礎研究を重視しているという国のメッセージでもあると思いました。日本の若手研究者はこれに応えて皆が申請すべき重要な事業だと思います。新潟大学には優れた研究者が多く在籍しています。もっと多くの方々が創発に採択されていても良いのではないかとも感じます。研究費はとにかく申請しないと得られないので「自分はそういう立場じゃない」と躊躇する以前に、申請要件を満たす方は、是非積極的に申請してみるとよいのではないかと思います。自立を目指す研究者であれば、自らのやりたい研究に必要な研究費は自分で獲得し独立した研究を積極的に推進する環境を自ら整えることを、より多くの方が実践できるよう、URAにも学内の意識改革などに取り組んでいただければと思います。
プロフィール
芝田 晋介 医歯学系医学系列(大学院医歯学総合研究科(医))教授
慶應義塾大学医学部助教、ハーバード大学研究員、慶應義塾大学講師などを経て、2021年より現職
(インタビュアー URA佐藤・久間木)
